極限計算のあれこれ

極限をもとめる際のあれこれをまとめてみようと思った。公式的なものだけでは不十分だと思ったので。ついでに基本的なことも記そうという色気もでた。ということで、HTML を書いてみた。

まずはじめに、ここでの極限の簡略化された記述について一言申し述べておく。$\lim{A}$ とあったら、この $A$ は極限操作の対象で、大体の場合には数列と関数である。

極限操作は、数列の場合をきちんと書けば $\displaystyle{\lim_{n \to \infty}a_n}$ であろうし、関数の場合であれば $\displaystyle{\lim_{x \to a}f(x)}$ であろう(有名どころでは $x \to 0$ や $x \to \infty$ である)。以下では、この数列と関数のどちらの場合をも代表するものとして、$\lim{A},\, \lim{B}$ と記す。もっぱら記述簡略化のためである。


よくみる式展開(通常、公式と呼ばれますね)を記すと($\alpha$ は極限操作に関係のないただの定数をあらわしている) \begin{align*} & \lim{(A + B)} = \lim{A} + \lim{B} \\ & \lim{(A - B)} = \lim{A} - \lim{B} \\ & \lim{(\alpha A)} = \alpha \lim{A} \\ & \lim{(AB)} = \lim{A} \cdot \lim{B} \\ & \lim{\dfrac{A}{B}} = \dfrac{\lim{A}}{\lim{B}} \quad(\lim{B} \neq 0) \end{align*} である。また必要がある場合には、この形を利用して、たとえば $A + B$ の極限を求めたりもする。これらは、数列を対象とするのであれば $\varepsilon$-$N$ 論法、関数を対象にするのであれば $\varepsilon$-$\delta$ 論法で証明される式展開である。

ここで今一度次の事柄を諒解し直しておきたい。すなわち、これらの式が成立するのは、$\lim{A}$ と $\lim{B}$ という極限が存在する場合に限られるということである。したがって最初のものを丁寧に書けば \begin{align} \text{$\lim{A},\, \lim{B}$ がともに存在する} \implies \begin{cases} \; \lim{(A + B)} = \lim{A} + \lim{B} \\ \; \lim{(A - B)} = \lim{A} - \lim{B} \\ \; \lim{(\alpha A)} = \alpha \lim{A} \\ \; \lim{(AB)} = \lim{A} \cdot \lim{B} \\ \; \lim{\dfrac{A}{B}} = \dfrac{\lim{A}}{\lim{B}} \quad(\lim{B} \neq 0) \end{cases} \label{eq.01} \end{align} となる。「はじめに $\lim{A}$ と $\lim{B}$ ありき」なのである。逆は必ずしも成り立たないところに留意である。

逆が成り立たない典型的な数列の例は、$a_n = (-)^n,\, b_n = (-)^{n-1}$ というものである($(-)$ は $(-1)$ の略。この書き方はメシアの量子力学で覚えた。個人的にとても気に入っている)。$\displaystyle{\lim_{n \to \infty}{a_n},\, \lim_{n \to \infty}{b_n}}$ ともに極限をもたないけれども, \begin{align*} \lim_{n \to \infty}{(a_n + b_n)} = \lim_{n \to \infty}\bigl\{(-)^n + (-)^{n-1}\bigr\} = \lim_{n \to \infty}{\bigl\{(-)^{n-1}(-1 + 1)\bigr\}} = 0 \end{align*} ともとまる。関数であれば $f = x^2,\, g = -x^2$ とすれば $\displaystyle{\lim_{x \to \infty}f = \infty,\, \lim_{x \to \infty}g = -\infty}$ であるにも関わらず \begin{align*} \lim_{x \to \infty}{(f + g)} = \lim_{x \to \infty}{(x^2 - x^2)} = \lim_{x \to \infty}{0} = 0 \end{align*} となるからである.

さて、上記の諒解のもとで考えると、この等号 $=$ は \begin{gather*} \text{$\lim{A}$ と $\lim{B}$ が存在するのならば、左辺の極限も存在するのだ。} \end{gather*} という主張が込められているともとれる。この主張を土台にすると、一見したところ収束するかどうかわからない $C$ について、それが $C = A \pm B$ とあらわせたり、$C = AB,\, C = A/B$ とあらわせたりするのならば、$\lim{C}$ が存在し、上の「公式」を利用して求められる、と言えることになる。言ってみれば『(極限操作のための)因数分解』を見つけ出して「公式」にあてはめるという手法だ。高校の数III(今ではそういう名前ではないだろうな)の問題集にあたれば、多種多様な『因数分解』での事例が載っているはずである。


2つめとして、極限の性質から導かれる事柄をまとめる。


「公式」や「極限の性質」を使った、極限の計算のストラテジを、まとめてみる。

  1. 『(極限操作のための)因数分解』の実施
    上にも書いたように、「公式」\eqref{eq.01} が利用できるように式変形(因数分解)を発見法的に見出して、極限を求める。そのバリエーションについては高校の問題集を参照するのがよろしいはず。

  2. 挟み撃ち定理の利用
    $\displaystyle{\lim_{n \to \infty}\{(-)^n/n\}}$ をどう求めるか?大小関係として \begin{align*} - \frac{1}{n} \leq \frac{(-)^n}{n} \leq \frac{1}{n} \end{align*} が成立するから、$n \to \infty$ の極限をとれば \begin{align*} 0 \leq \lim_{n \to \infty}\frac{(-)^n}{n} \leq 0 \quad\therefore\;\; \lim_{n \to \infty}\frac{(-)^n}{n} = 0 \;. \end{align*}

    もうひとつ、$\displaystyle{\lim_{x \to 0}\bigl(x\sin(1/x)\bigr)}$ をもとめてみよう。一般に $\abs{\sin(1/x)} \leq 1$ であるから \begin{align*} 0 \leq \abs{\bigl(x\sin(1/x)\bigr)} \leq \abs{x} \quad\therefore\;\; \lim_{x \to 0} 0 \leq \lim_{x \to 0}\abs{\bigl(x\sin(1/x)\bigr)} \leq \lim_{x \to 0}\abs{x} \quad\therefore\;\; 0 \leq \lim_{x \to 0}\abs{\bigl(x\sin(1/x)\bigr)} \leq 0 \end{align*} なので、挟み撃ち定理から $\displaystyle{\lim_{x \to 0}\abs{\bigl(x\sin(1/x)\bigr)} = 0}$ である。そして $\lim{A} = 0 \iff \lim{\abs{A}} = 0$ であったから、$\displaystyle{\lim_{x \to 0}\bigl(x\sin(1/x)\bigr) = 0}$。


  3. $\lim{A} = a \iff \lim{\abs{A - a}} = 0$ の利用。
    $A := (-)^n/n,\, a := 0$ とおくと \begin{align*} \abs{A - a} = \abs{\frac{(-)^n}{n} - 0} = \frac{1}{n} \quad\therefore\;\; \lim_{n \to \infty}\abs{A - a} = \lim_{n \to \infty}\frac{1}{n} = 0 \end{align*} なので \begin{align*} \lim_{n \to \infty}\abs{A - a} = 0 \quad\therefore\;\; \lim_{n \to \infty}A = a \quad\therefore\;\; \lim_{n \to \infty}\frac{(-)^n}{n} = 0 \;. \end{align*} 当然ながら、挟み撃ちの場合と同じ結果になる。

  4. ちょいとした判じ物
    $\lim\{(2A - 4)/(A + 3)\} = 1$ のときの $\lim{A}$ を求める。$B = (2A - 4)/(A + 3)$ とすると、$A = (3B + 4)/(2 - B)$ である。そのうえ、ただ置き換えただけだから $\lim{B} = 1$ でもある。したがって(公式をなぞる意味で丁寧に書けば) \begin{align*} \lim{A} = \lim\frac{3B + 4}{2 - B} = \frac{\lim{(3B + 4)}}{\lim{(2 - B)}} = \frac{\lim{3B} + \lim{4}}{\lim{2} - \lim{B}} = \frac{3 + 4}{2 - 1} = 7 \;. \end{align*} (この例は、黒田紘敏さん のところのhttp://www7b.biglobe.ne.jp/~h-kuroda/pdf/text_calculus.pdfから学びました。他にも多くのことをこの大作から学んでいます)。

  5. 十分条件を突破口として
    仮に $\lim{A}$ が存在するとすると、いくつかの極限の候補 $L_1,\, L_2,\, \ldots$ が見出せたとする。そのとき、これらの候補が実際に $A$ の極限になっているのかを確認し、必要条件も満たしているということを確認する手法。うまい例があればいいのだけれど、まだいいものが見つからない。

  6. 括弧がほどけるとき
    $\lim{X}$ の極限があるかどうかは不明であるとき、それでも $\lim{A}$ の存在がわかっていて \begin{align*} \lim{(X - A)} = \alpha \quad\text{($\alpha$ はある定数)} \end{align*} であるときには、無条件に括弧がほどけ $\lim{X}$ が求まるのである。「公式」の説明においては、$\lim{(X - A)}$ は、$\lim{X}$ と $\lim{A}$ が存在するのならば括弧がほどけるのであった。しかし今の場合、右辺が定数 $\alpha$ であるので左辺も定数、つまり左辺は極限を持つということになる。なので、$\lim{(X - A)}$ 全体が極限をもち、かつ $\lim{A}$ が極限をもつのだから、$\lim{X}$ も極限を持たなくてはならない、という理屈になる。それゆえ \begin{align*} \lim{(X - A)} = \alpha \quad\therefore\;\; \lim{X} - \lim{A} = \alpha \quad\therefore\;\; \lim{X} = \lim{A} + \alpha \end{align*} として、未知の $\lim{X}$ を求めることができるのである。

    この理屈の説明は、こちらの方が諒解しやすいかもしれない。$B := X - A$ とすると $\lim{B} = \alpha$ なのだから、$\lim{B}$ はすでに存在している。そして $\lim{A}$ も存在しているとしているのだから、 \begin{align*} \lim{X} = \lim{(B + A)} = \lim{B} + \lim{A} = \alpha + \lim{A} \end{align*} となるのである。

    わかって仕舞えば、あたりまえなのであるが、わたくしはこの括弧をほどくことを正当化する理由について、数日考え込んでしまっていたのであった。とほほであるが、ま、それはそれとして。