「$\alpha$ と $\beta$ が等しい」ということの $\varepsilon$ 論法による表現


実数の等しさは、$\varepsilon$ 論法で次のような論理式としてあらわされる。言われてみればなるほど、というものであるけれど、何こここまでやらなくとも、というのが第一感であった。

$\alpha,\, \beta,\, \varepsilon$ は任意の実数であるとする(実数の集合を $\mathbb{R}$ とあらわそう)。このとき、$\alpha$ と $\beta$ が等しい($\alpha = \beta$)ということは、次の論理式で表される:
\begin{align*} \forall \varepsilon > 0:\; ( \forall \alpha, \forall \beta \in \mathbb{R}:\; \abs{\alpha - \beta} < \varepsilon \implies \alpha = \beta ) \end{align*}

この事柄を、$\alpha \neq \beta$ として背理法で証明してみる。$\varepsilon_0 = \abs{\alpha-\beta}/2$ とすると、$\alpha \neq \beta$ と仮定しているので、これはあきらかに $0$ より大きい数である。したがって上の論理式の仮定の部分は \begin{gather*} \abs{\alpha - \beta} < \varepsilon_0 = \frac{\abs{\alpha - \beta}}{2} \quad\therefore\;\; 2\abs{\alpha - \beta} < \abs{\alpha - \beta} \quad\therefore\;\; \abs{\alpha - \beta} < 0 \end{gather*} となって、絶対値の定義からこれはありえないことがわかる。つまり矛盾が引き起こされているのである。したがって。背理法の仮定が間違いで、上記論理式は $\alpha = \beta$ のときにのみ成り立つのである。

この背理法の構造を、念のために記しておこう。もともとの論理式を簡略すると \begin{align*} \forall \varepsilon > 0:\; ( \forall \alpha, \forall \beta \in \mathbb{R}:\; P \implies Q ) \end{align*} と書ける。ここで、背理法の仮定として $P \implies \lnot{Q}$ であると仮定するのである(今の場合は、$\lnot{Q}$ は $\alpha \neq \beta$ である)。そしてそこから論理式に対して矛盾を導き出し、その結果

$P \implies \lnot{Q}$ は矛盾。したがって $P \implies Q$ でしかありえない。
となるのである。

ついでに記号 $\forall$ の使い方についてである。上の証明では $\forall \alpha, \forall \beta \in \mathbb{R}$ と丁寧に書いたが、これはしばしば $\forall \alpha, \beta \in \mathbb{R}$ というようにも書かれる。これが同じ内容であるということについてはもはや理屈はなく、慣れるよりしょうがない。